ロシア人がプーチン大統領に「過去最高の投票」をした理由とは?専門家が分析!
ルカシェンコ大統領がプーチン氏と矛盾する発言、モスクワ襲撃犯は「ベラルーシを目指した」 - CNN.co.jp ルカシェンコ大統領がプーチン氏と矛盾する発言、モスクワ襲撃犯は「ベラルーシを目指した」 CNN.co.jp (出典:CNN.co.jp) |
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■過去最高87%の得票率でプーチン大統領が再選
ロシアで3月15日から投票がはじまった大統領選、投票率77.5%は過去最高であり、7627万票を獲得したプーチン大統領の得票率も87%を超えて過去最高となった。通算5選目のプーチン大統領は、77歳になる2030年まで長期体制を維持することになる。
プーチン氏にとって、選挙の目的はもはや勝つことではない。圧倒的な勝利を示すことで、彼の永続的な支配と終わりなき戦争の正統性を刷新できると考えているように見える。「反対派は少数であり、自分を支持するロシア民衆の意思には逆らえない」と主張できることが重要なのだ。
プーチン氏は今回の選挙に向け、粛清や言論弾圧を重ねて着々と準備を進めてきた。
特に反体制派の指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が、昨年12月に北極圏の刑務所に収監され、2月に急死したことは国際的な非難の的になった。ロシア各地で開かれたナワリヌイ氏の追悼集会では少なくとも397人が逮捕され、モスクワ南部で葬儀があった3月1日は19都市で128人が拘束されたと報じられている。
葬儀には数千人の市民が集結し、墓地まで約1万6000人が行進して「戦争反対」「プーチンがいないロシアを」などの声をあげたと報じられた。映像を見ると3万~4万人に見えるほど多くの市民が集まっていたが、心配されたほど騒ぎは大きくならなかった。機動隊は出動したものの強制排除はなく、モスクワ市内で拘束されたのは17人だった。
■なぜ「プーチン・マジョリティー」は戦争について語らないのか
ナワリヌイ氏は女性人気が高かったせいか、葬儀や行進は女性の姿が多かった。男性の場合、万が一捕まるとそのまま戦場へ送られるという政府の“飛び道具”を恐れたからという話もある。
大統領選が近づくと、言論弾圧の動きが加速した。反体制派の新聞は販売店に並ぶとすぐロシア当局が押収し、編集長が拘束されたと伝えられている。
反プーチンを掲げる人たちはごく一部であり、生命の危険を顧みずデモに参加する人は国民全体から見れば微々たるものだ。今回の選挙結果にも表れたように、プーチン氏の支持者が多数を占めることは確かだ。
この支持者たちを「プーチン・マジョリティー」と呼ぶメディアもある。静かな大衆、物言わぬ多数派という意味の「サイレント・マジョリティー」をもじったもので、実際、彼らはプーチンを支持すると積極的に発言することはない。ウクライナ戦争についてもほとんど何も語らない。あえて沈黙することで、逆説的に戦争を支持している人が多数派を占めているというのがプーチン・マジョリティーである。
■経済制裁でも、1年でマイナス成長を克服
ロシア経済が持ち直したことも、プーチン支持が揺るがない理由の1つだろう。アメリカを中心にG7、EU、オーストラリアなどが経済・金融制裁をつづけてきたにもかかわらず、2023年の実質GDPはプラス3.6%だった。ウクライナ侵攻がはじまった2022年はマイナス1.2%だから、1年でマイナス成長を克服したことになる。
経済制裁が効いてない一方で、EUの盟主であり、ロシアからのエネルギー輸入を見合わせているドイツがマイナス成長だから、ロシア経済の堅調さが目立つ。
ロシア経済の回復は、戦争継続による軍事関連需要の高まりが最大の理由と見られている。また、原油の輸出先は中国、インド、トルコなどの“友好国”にシフトし、非ドル取引の拡大によってロシア貿易は安定的に継続されている。
ただし、強い軍需によって経済が過熱し、深刻な人手不足とインフレ率7%台の物価高を招いて、国民生活を圧迫していることも事実だ。
プーチン氏は選挙の2週間前(2月29日)に「年次教書演説」で内政や外交の基本方針を示した。彼の演説は2時間を超え、国民の大多数がウクライナ侵攻を支持していること、ウクライナで多くの領土を解放したことなどを強調した。
■2時間もの演説で語った「欧米との戦い」
安全保障については、西側諸国がロシアを軍拡競争に引きずり込もうとしていると述べている。
また、2月26日にフランスのマクロン大統領が「欧米の部隊をウクライナに派遣する考えを排除しない」と述べたことを受け、ロシアには「彼らの領土を攻撃する能力がある」と語った。大陸間弾道ミサイル「サルマト」の実戦配備を進めていることにも触れている。サルマトは核弾頭を搭載できて、アメリカが射程に入るミサイルだ。
プーチン氏が年次教書演説で主張したのは、ウクライナ戦争の継続だけでなく、NATO加盟国をはじめとする欧米各国との戦いである。永続的につづく「欧米との戦い」は、ロシア国内の容赦ない粛清や弾圧、検閲など抑圧の根拠となる。
プーチン氏にとって、87%もの得票率で再選した今回の選挙は、国民が年次教書演説の内容を承認し、支持したことを意味するのだろう。ウクライナ戦争の終結後も「欧米との戦い」は継続されることになる。
■EUとNATOを疲れさせるハンガリーの独裁政治
日本人から見ると、プーチン氏のような独裁的で強権的な政治家が30年も大統領をつづける状況は考えにくい。
しかし世界には、独裁的で強権的なリーダーはほかにもいる。EUでいえば、ハンガリーのオルバン・ビクトル首相も強権的なリーダーのひとりだ。
オルバン首相は、3月8日にアメリカのトランプ前大統領と会談して話題になった。後日、地元テレビ局のインタビューに応えて、トランプ氏が「ウクライナとロシアの戦争には『一銭も出さない』と言った」と語り、トランプ氏が再選すれば、ウクライナ支援を打ち切るという見通しを明かしたからだ。
さらにオルバン首相は「この戦争は終わる。ウクライナが自力では立てないからだ。ヨーロッパだけで支援を継続することはできない」という自身の考えも示した。
ハンガリーはEUとNATOの加盟国でありながら、「オルバン首相による独裁国家」といわれる。ウクライナ支援についても、西側諸国の足並みを乱していると問題視されている。昨年12月に欧州理事会(EU首脳会議)で500億ユーロ(約7兆9500億円)の追加支援策が検討された際も、オルバン首相が拒否権を行使し、今年2月の特別欧州理事会まで合意が見送られた。
スウェーデンのNATO加盟についても、オルバン首相ひとりが承認に反対しつづけてきた。2月26日にようやくハンガリー議会で承認され、オルバン首相の署名を待つ状態になっている。議会承認の3日前、スウェーデンが自国製の戦闘機4機をハンガリーに売却すると両国が合意したため、裏工作ではないかと噂されているが、オルバン氏は否定している。
■「駆け引き」の材料にされるウクライナ支援
EUのウクライナ支援とNATOのスウェーデン加盟は採択に全会一致が必要なため、オルバン首相ひとりに撹乱されている。特にEUはハンガリーとの駆け引きがつづき、“オルバン疲れ”が見られるほどだ。
背景には、ハンガリーへのEU補助金が凍結されたことがある。EUの補助金はコロナ禍による経済的ダメージへの復興基金で、ハンガリーが2021年5月に提出した復興計画から総額58億ユーロ(約7兆5400億円)の補助金が決まった。しかしハンガリーはEUが求めた改革措置を達成せず、2022年に補助金75億ユーロ(約9兆7500億円)の一時凍結が決定された。特に「法の支配」の欠如や人権侵害などが指摘されている。
昨年12月の欧州理事会では、ハンガリーがウクライナ支援などに強く反対したことから、全会一致で議案を通すためにハンガリーへの補助金102億ユーロ(約1兆6460億円)の凍結を解除した。オルバン首相は「凍結されたままの補助金約120億ユーロ(約1兆9365億円)も解除されたら、ウクライナ支援などの交渉に応じてもいい」と語り、さらなる駆け引きを示唆していた。EUが“オルバン疲れ”に陥るのも理解できるだろう。
■EUで唯一の「独裁国家」
EUの加盟国は「自由」「平等」「法の支配」「民主主義」などの価値観を共有していることになっている。しかしハンガリーは、国際NGOフリーダムハウスの「自由度評価の指標」から見て、「自由(free)」な国ではなく、EUで唯一「一部自由(partly free)」にランクづけされている。
また、民主主義の度合いを自由主義、選挙制度、平等、参加、熟議の観点から測定するV-Dem研究所の指標でも、ハンガリーはEUで唯一の「独裁国家(選挙独裁主義)」と認定されている。
オルバン氏は1998年に35歳で首相となって2002年まで務め、2010年に再び就任して現在に至るので、通算18年の首相経験がある。政治手法はかなり強権的で、特徴を列挙すると以下のようになる。
○ 司法機関の独立性を弱める
○ 言論と報道の自由を侵食する
○ 汚職対策を打たないどころか政府上層部も不正行為に手を染める
○ 自由でない不公正な選挙を黙認(または率先)する
○ 少数民族を抑圧する
○ 学問の自由を制限する
○ ジェンダー平等を軽視する
○ 性的少数者を抑圧する
4年に一度の国政選挙で選ばれてきた首相なので、表面的には民主的な手続きによる施政といえる。しかし、自由でない不公正な選挙の結果ともいえ、オルバン氏が党首の政党フィデスは、常に議会で3分の2ほどを占めている。
■なぜ独裁的な政治家は仲がいいのか
オルバン首相は親ロ、親中でも知られる。プーチン大統領と仲がいいことから、野党は「ハンガリーのプーチン」と呼んで批判している。
オルバン首相が奇妙な外交姿勢を取るのは、国内の権威主義的な体制を強化することを狙ってのことだろう。ロシア、中国との緊密な関係をテコに、EUやNATOの共同決定事案を阻止すると脅して、ハンガリーとの「対立コスト」を引きあげていく。EUはじめ他国から内政に口出しできない状況をつくり、自分の権威主義的な体制を強化しているのだ。
かなりの親ロ、親中とはいえ、ハンガリーの脱EU、脱NATOは考えられない。オルバン首相の親ロ、親中はEU内でゴネ得するためのカードに過ぎないからだ。
オルバン首相の政治ポリシーは「ハンガリー第一主義」だ。自国の利益、自分の利益になれば、ロシアや中国とも良好な関係を築く。
現在のハンガリーにとって、最大の仮想敵国はアメリカだといわれる。トランプ時代のアメリカとは蜜月の関係だったのが、バイデン政権では仮想敵国とされているのだ。3月初めにトランプ氏と会談したのも、11月の大統領選で再選したらまた蜜月関係に戻るという意味なのだろう。「自国ファースト」「強権的な政治姿勢」「反ポリコレ」など共通点が多いふたりが意気投合しても不思議ではない。
■不安と恐れを煽り、独裁を正当化する
1月30日配信の「プレジデントオンライン」の記事でも説明したように、トランプ氏の高い支持率は「自国ファースト」「強権的な政治姿勢」「反ポリコレ」などの政治姿勢、政治手法が国民に歓迎されている面がある。“強くて本音のトランプ”に熱狂する支持層は確実にいるだろう。強権的な政治が意外なほど支持を集めることは、プーチン大統領の得票率を見てもわかる。
TBSのドラマ「不適切にもほどがある!」(金曜22時)の視聴率が高いのも、ポリコレという現代のテーマを扱っているためかもしれない。テレビドラマで“あけすけな本音”や“昭和の感覚”を面白がるのはいいが、現実の政治で強権的な政治や反ポリコレが強く支持されるのはおそろしいことだ。
強くて本音の政治家はたしかにウケる。しかし本音だけでは社会が成り立たないから、法律やモラルといった制約があるのだ。
強くて本音の政治家は、筆者がコーチングで学んだ考え方から見ると、人間の潜在意識にある「安全安心の欲求」を刺激している。プーチン氏が「欧米との戦い」を強調するように、不安や恐れを煽って自分の強権的な政治手法を受け入れさせるからだ。人種や性的少数者などへの差別も同様だろう。不安が高まれば、国民は強いリーダーを求め、多少の抑圧にも耐える。
たしかに独裁的、権威主義的な政治手法には魅力、魔力があって、世界的に独裁の魔力が伝染しているようにも見える。しかし、独裁者の多くが最後に暴走し、破滅していくことは過去の歴史が証明している。自分に諫言する人間を近くに置かないことも理由の1つだ。
独裁者の末路は、企業の経営者にも教訓を与えてくれる。まずは独裁の魔力を警戒して、部下の諫言に耳を傾けるところからはじめてはどうだろうか。
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立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント
専門は企業・産業・技術・金融・経済・国際関係等の戦略分析。日米欧の金融機関にも長年勤務。主な著作に『GAFA×BATH』『2025年のデジタル資本主義』など。シカゴ大学MBA。テレビ東京WBSコメンテーター。テレビ朝日ワイドスクランブル月曜レギュラーコメンテーター。公正取引委員会独禁法懇話会メンバーなども兼務している。
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(出典 news.nicovideo.jp)
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