日本人を貧困に追い込む?グリーン成長戦略の真実とは
EVと太陽光の「エコ政策」を続ければ日本は滅ぶ…日本人をどんどん貧しくする「グリーン成長戦略」のウソ ... - Yahoo!ファイナンス EVと太陽光の「エコ政策」を続ければ日本は滅ぶ…日本人をどんどん貧しくする「グリーン成長戦略」のウソ ... Yahoo!ファイナンス (出典:Yahoo!ファイナンス) |
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※本稿は、杉山大志『亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■「カーボンニュートラルの達成」は極めて困難
現在、日本は「2050年までにCO2ゼロ」という目標を実現するために「グリーン成長戦略」(正式名称「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」)を掲げています。
再生可能エネルギー(グリーン・エネルギー)を導入・拡大しながら、そのエネルギーシフトに伴う投資・技術革新等で経済も成長させて、2050年までに「カーボンニュートラル」(CO2などの温室効果ガス排出を全体としてゼロにすること)を達成しようというプランです。
2020年10月に当時の菅政権が「2050年カーボンニュートラル」を宣言したことを受けて、翌2021年6月に発表されました。
しかし、現状を踏まえると、カーボンニュートラルという目標を達成することは極めて困難というほかありません。
■深刻な社会的悪影響が起きる
それどころか、同戦略を実施に移すとなると、深刻な社会的悪影響が起きることは必定です。根本的な政策変更が求められます。
では、どのような成長戦略なら現状に即したものになるでしょうか?
その核心は「現実的な時間軸の設定」と「原子力の活用」です。
現行のグリーン成長戦略を見ると、2050年時点において、①電力部門においては脱炭素電源を活用し、②非電力部門においては電化を進め、電化できない部分については、水素、メタネーション、合成燃料、バイオマスなどのCO2排出のない燃料を用いて、③それでも発生するCO2についてはDACCS(大気からCO2を回収して地中に処分する技術)や植林で相殺する、としています(図表1参照)。
■結局、導入可能なのは原子力
しかし、ここで列挙された技術のうちで、技術的にすでに確立して経済的に導入可能と見込まれるものは原子力と一部の電化にとどまります。
他の技術はいずれも、未熟な技術であって研究開発段階に過ぎないものや、あるいは再生可能エネルギーのように高価なものばかりです。これらの未熟ないし、高価な技術が大量導入されるとなると、その経済的な悪影響は甚大になります。
これに関して、日本には「悪しき前例」があります。
前の記事で述べたことですが、いま政府は、太陽光発電等を大量導入するために、再生可能エネルギー賦課金として年間2.4兆円を毎年徴収しています。
■「再生可能エネルギー」では日本経済が破綻する
しかし、これによるCO2削減の効果は2.5%に過ぎません。1%のCO2を削減するのに1兆円もかけているのです。
もう同じ轍(てつ)を踏んではいけません。この調子で100%のCO2削減など目指せば、大変な“災厄”になります。
より現実的な日本の戦略としては、①原子力を最大限活用すること、②経済的な範囲で電化を進めることを優先すべきです。そして、長期的には、③技術開発を進め、経済性を有するようになった技術を導入していくべきでしょう。
■電力価格を高くする政策ばかり実施してきた
まず直ちに取り組むべき課題として、発電部門については、安価で安定な電力供給を実現しなければなりません。
これにより、競争力のある電力供給を実現し、日本の産業部門を活性化することができます。
のみならず、電気料金を抑制することで、家庭部門および業務部門の電化を促進できます。
これまで日本は電力価格を高くするような政策ばかり実施してきました。それでは電化が進むはずがありません。電力価格は低く抑えねばならないのです。
今の日本の電力市場は複雑怪奇なものになっています。多くの官製「市場」が導入され、制度変更は果てることなく続いていて、投資回収の予見可能性が低くなっています。
■「再生可能エネルギー優遇」がコスト上昇要因になっている
その中にあって再生可能エネルギーは手厚く優遇され、大きなコスト上昇要因になっているのみならず、火力・原子力発電事業の収益性を低下させています。
電力価格を抑制するためには、電力市場の歪(ひず)みを取り除かねばなりません。
再生可能エネルギーへの優遇措置を全廃した上で、再生可能エネルギーが電力系統へ与えている負荷については「応分の負担」を求める必要があります。
日本をとりまく現在の地政学的状況においては、天然ガス火力発電、石炭火力発電は、いずれもエネルギー安全保障の観点から一定の割合を維持しなければなりません。
■原子力を国策として推進すべき
長期的には、原子力発電の増大に伴って、これら火力発電の設備利用率は低下し、CO2排出量も減少します。そのためにも、政府は原子力を「国策」として明確に推進する必要があるのです。
その際には、政府のファイナンスも活用して、予見可能性のある形で原子力事業が実施できるようにすべきです。
まずは既存原子炉の再稼働を進め、ついで運転期間の60年、80年への延伸、新増設を進めます。
また、外部動力がなくても安全に停止するパッシブ安全技術等を用いた革新型原子炉を導入します。
■「小型モジュール炉・核融合」の技術開発が必要
重要な技術開発としては、小型モジュール炉(SMR:Small Modular Reactors/従来よりも小型で安全性が高く、簡易な建設も可能な次世代原子炉)、および核融合炉(核分裂反応のエネルギーを利用する従来の原子炉に対して、核融合反応で生じるエネルギーを発電などに利用する装置)があります。
原子力を活用し、経済的な電化を進めることで、現状の技術においてもCO2をほぼ半減することが可能でしょう。
長期的には、運輸部門や産業部門における脱炭素化は、技術開発を伴うさらなる電化の推進、および原子力による水素供給によって挑戦します。
■電気自動車はまだ大量導入すべきでない
グリーン成長戦略に掲げられているさまざまな技術がいつ導入されるかは、基礎的な技術開発の成否にかかっています。
経済性を有するようになれば導入すればよいのですが、まったく予断はできません。これらの技術は、実は30年以上前から取り組んできたものばかりなのです。
科学技術は全般に進歩しているので、今後30年の間にブレークスルーが現れ、普及が進む可能性はあります。それゆえ、研究開発を進めることは結構なのですが、過度な楽観論は根拠がありません。
例えば、電気自動車についてはどうでしょうか?
電気自動車はいまだ高価なので大量導入すべきではありません。しかし、バッテリーの技術革新があれば、運輸部門の半分を占める乗用車は経済的に電化され得ます(トラックの電化は乗用車より普及の敷居は高くなります)。
このようにバッテリーの技術革新が実現可能かどうかは予断できませんが、研究開発に取り組む価値はあるでしょう。
■ユートピア的な脱炭素化より、現実的なシナリオを
今の政府のグリーン成長戦略のままでは、膨大なコストがかかり、人々の生活水準が著しく低下します。社会は不安定となり、最終的には脱炭素にも失敗します。
筆者の提案する戦略では「2050年まで」という目標期限を達成することはできません。しかしながら、日本社会を不安定にすることなく、十分に迅速かつ継続的にCO2排出量を削減することはできます。
技術開発に伴い、経済的に魅力ある手段が増えれば、CO2排出量をさらに削減することもできるでしょう。
これは従来のユートピア的な脱炭素化のシナリオではなく、現実的なシナリオです。日本の経済力を高め、安全保障を強化するものにもなっています。革新炉、SMRや核融合の技術を確立すれば、重要な輸出産業にもなるでしょう。
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キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
東京大学理学部物理学科卒、同大学院物理工学修士。電力中央研究所、国際応用システム解析研究所などを経て現職。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、産業構造審議会、省エネルギー基準部会、NEDO技術委員等のメンバーを務める。産経新聞「正論」欄執筆メンバー。著書に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『中露の環境問題工作に騙されるな!』(かや書房/渡邉哲也氏との共著)、『メガソーラーが日本を救うの大嘘』(宝島社、編著)、『SDGsの不都合な真実』(宝島社、編著)などがある。
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(出典 news.nicovideo.jp)
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