悔いを残す男性の半生、ライブ配信での暴言が活動休止に
「俺の誹謗中傷がガンガン炎上」長渕剛 自身を取り巻く騒動に言及“実害”も生じ憤り - 女性自身 「俺の誹謗中傷がガンガン炎上」長渕剛 自身を取り巻く騒動に言及“実害”も生じ憤り 女性自身 (出典:女性自身) |
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インターネットやSNSには、血の通わない匿名の投稿があふれている。自分に向けられたものでなくても、タイムラインに流れる誹謗中傷を目にするだけで心が削られることもあるだろう。
顔の見えない投稿者の素性を知る機会は少ない。法的な手続きによって、誹謗中傷した相手を突き止めてみると、経済的な理由から損害賠償の支払いに応じないこともままある。
不快な投稿を2000回以上も繰り返し、1人の動画配信者を活動休止に追い込んだことで、配信者と所属企業に大きな損失を生じさせた30代男性が取材に応じた。
「みんな不愉快になればいいんだとヤケを起こした」「私は立ち止まることができなかった」。甚大な迷惑行為をおこなった加害者男性は、そう振り返った。
被害者が対峙させられているのはどんな人たちなのか。被害者が立ち上がったとき、加害者にはどんなことが待っているのか。ネットの悪意が取り巻く現場の実態に迫った。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)
●埃だらけのパソコンから「攻撃」を繰り返した西日本在住の佐藤大輔さん(仮名・30代後半)は、家賃3万円、6畳半のアパートに住む。
「食事は1日1食。起き抜けにお米を炊いて、スーパーで買った肉や野菜を炒めます。体調が悪ければずっと横になって、良いときはゲームや散歩をしています」
一日の大半を過ごす万年床の隣には、座卓の上に鎮座した埃まみれのデスクトップパソコンがある。
生活の楽しみは、夕方から4〜5時間見るネット動画だ。
2年前、このPCから、動画配信者のYouTubeライブを数日間「荒らし」続けた。
しばらくして、企業から損害賠償請求訴訟の提起を予告する書面が届いた。記載された賠償金額は、彼には到底支払えるようなものではなかった。
●トップクラスの人気VTuber活動休止の一因を作って企業に大きな打撃法的手続きによって佐藤さんの身元を突き止めたのは、ライバー(VTuber)グループ『にじさんじ』運営の「ANYCOLOR株式会社」(東京都港区)だ。
VTuberとは2D/3Dのグラフィクスのヴィジュアルを用いる動画配信者。ライバーのYouTubeライブ配信では、視聴者が他の視聴者にも見える形で自由にコメントを投稿できる機能がある。にじさんじに所属するライバーは、配信中の悪質なコメントに悩まされていた。
2022年8月のある日、佐藤さんは、にじさんじに所属するライバーのプライベートについてしつこく質問するコメントを10数分のうちに100件近く連投するという「荒らし」をおこなっていた。
対象となったライバーは、仲間の配信に迷惑をかけるとして活動を即座に休止。同年中に「卒業」に至り、SNSやネットニュースで騒ぎになった。
「他のライバーの配信において、自分に関する変なコメントが大量になされてしまっている。他のみんなに迷惑をかけることはできない」(このライバーが同社に伝えた内容)
ライバー本人は、精神的に傷ついただけでなく、ライバーとしての活動をとりやめざるをえなかった。ライバーの関連商品が販売できなくなるなど、所属企業にも大きな損害が生じた。
ライバーにとっての仕事である配信を妨害する「荒らし」は、法的にも業務妨害行為として、違法行為となることもある。
佐藤さんの個人情報の開示を命令した東京地裁の決定(2023年6月)によると、配信とは無関係な投稿を短時間に大量に続けて同社の営業活動を妨害し、さらにライバーの活動を休止させたことも踏まえれば、同社の営業権を侵害することは明白であると判断した。
●佐藤さんの生い立ち今年2月、佐藤さんは取材場所の京都市内にやってきた。交通費を捻出する必要があり、障害者年金の支給直後の日取りが指定された。
「信心深い母親のもとで育った」という佐藤さんの生い立ちが語られた。
母親は6人の子どもたちには何より信仰心を優先させたという。
末っ子の佐藤さんに良いことがあれば「母親の私が祈って信心を深めたからだ」。
悪いことがあれば「お前の信心が足りないからだ。仏壇を拝みに行ってこい」。
佐藤さんはそうした日々を「人格否定で自己肯定感が育てられなかった」と振り返る。
一度だけ大学進学を相談したが、母親はにべもなく否定した。上の兄や姉がそうだったように、高校卒業後からコンビニなどで働き、手取り13万円を稼げば、そのうち12万円を母親に渡した。
そんな暮らしに苦悩しながらも、学校で相談できる相手はおらず、いつしかうつ病と診断されたという。
●凶器にしたのも救ってくれたのもインターネット心のより所は、自室のPCで見るネット動画だけ。その共通の趣味を通じて知り合った友人から家出をすすめられたそうだ。
友人の住んでいた土地に流れ着いて10年、無職のままで6畳半暮らしの生活を送る。通院先からは休養を指示されている。
佐藤さんは「彼の一言がなければ確実に生きてなかった」というが、「家族の暴言が今も脳裏によぎり、夢にまで出てくる」。
そうすると、平静でいられなくなり、発作的に「ダメだ。価値がない」と自分を責めてしまうだけでなく、SNS(X)で繋がる知人にも被害妄想をぶつける。「そのたびに親交が途切れて後悔する」という。
●「やったのは100件の荒らしだけではない」配信での「荒らし」をおこなったのも「衝動的だった」と説明した。
「配信者もリスナーもみんな不愉快になればいいんだとヤケを起こした。前科も前歴もないし、冷静な状態ならやらなかった。あんなことをしたのは最初で最後」
裁判の場で取り上げられた「荒らし」投稿は100件強だったが、 実際には同様の「荒らし」を2000件ほど投稿していたと明かす。
「それも私がやりました。配信者にブロックされたことがわかると、新たにアカウントを変更して、荒らしを続けました」
佐藤さんによると、「2日以上、起きている時間のエネルギーすべてを荒らしに使った。次第に、自分がヤバいことをしたと自覚していった」という。
当時は衝動的に荒らしをしていたというが、一方で「疑問系の投稿にすることで名誉毀損などのリスクは減らせるという気持ちがあった」「私自身がされて一番嫌なことを同じようにしたのではないか」と冷静に当時の状況を振り返る。
また、かつて、家族から受けてきた暴言がどんな名誉毀損や侮辱に当たるのか調べていたこともあったという。
●「これは自分のやったことじゃない」信仰心を捨てた男性がすがった「神頼み」それからおよそ1年の間に、プロバイダからの照会や、同社からの「損害賠償請求訴訟の予告通知」が届いた。
「自分には賠償を請求されても支払い能力がありません。謝罪させて下さい」。2023年11月、同社宛にそうメールしたという。
ライバーの活動休止や卒業はプレスリリースも出され、話題になった。謝罪するタイミングはそれまでにも十分にあったわけだ。
「リリースは当日に見たが、何をどうしてよいのかわからなかった。謝罪しても受け入れてもらえるわけがない。金銭的な補償もできないし、沙汰を待つ以外に方法がなかった。
SNSの反応も目にするのが怖くて、見れば怖くて死ぬしかないと思い、見れなかった。
活動休止は別の何かが原因で、自分の荒らしが原因ではないと、神頼みに近いことを考えていた。裁判だけはいやだ。今度こそ死ぬしかなくなる。でもいやだ」
現実逃避と逡巡を繰り返しながらも、「訴訟」の2文字を見て現実だと認識した。
その後、数カ月間にわたり同社と交渉し、同社の提示した条件を受け入れることで示談が成立した。
●誹謗中傷のニュースを見て考えることは誹謗中傷は人を傷つけ、仕事を奪ったり、表現活動を妨げたりもする。亡くなる人もいる。
佐藤さんもそうしたニュースを見聞きすると、被害者だけでなく加害者にも思いを馳せるようだ。
「私は自分が過去、家族にされてきたことよりも一生をもっても償えないことをした。
誹謗中傷や罵詈雑言は被害者側に原因があるわけはない。加害者側が悪いと声を大にして言いたい。
私みたいに心に余裕のない人の吐け口であるかもしれないし、物事を重く捉えることのできない子どもによるものかもしれない。
誹謗中傷の報道をニュースで見るたび、加害者の中には無職の人や私よりひどいと思われる状況にある人も見受けられる。そうだとしても、それは言い訳にならないし、誹謗中傷をする前に立ち止まることができると思う。自分の辛さに他人を巻き込むのは何よりやっちゃいけない。
私は立ち止まることができなかったが、もう二度と同じことをやってはなるものかと覚悟している」
誹謗中傷の加害者は民事・刑事で法的責任を問われる。法改正によって、厳罰化も進んでいる状況だ。
「同じことをやれば、次は間違いなく罪に問われることも理解している」
●今でも動画配信の視聴は「生きがい」でやめられない今も「生きがい」だという動画配信者のライブ配信への投稿や、Xへの投稿は続けているが、自分を信じきれない。
眠る前は、PCの電源を落として、ネットやSNSの投稿では「Enterを押す前に一呼吸おいて立ち止まる。書いている途中の内容を消すことも一度や二度ではなくなった」
病気や障害などを理由に仕事につけず、家族や知人との縁も薄弱で、犯罪を起こすことを躊躇せず、法的責任を追及されても、金銭的補償に応じない。人生に行き詰まった人たちは総じて「無敵の人」というネットスラングで呼ばれることがある。
経済的には「無敵の人」と呼ばれる存在に近い佐藤さんに、彼らをどう捉えればよいのか聞いた。
「罪の意識もなく、悪意ある行動を繰り返して、完全に無敵の人になった人には、解決策を示せない。
程度の低い結論だが、罪を犯した人は裁かれて然るべき。何もできないならせめて、できる限りの誠意を見せるべき」
誹謗中傷の加害者を生み出す背景には、個人的な問題ではなく、社会の問題もあるのではないか、と佐藤さんに尋ねてみた。
「私に限れば、自分の状況の悪さは生まれの問題であり、社会に感謝こそすれ、社会に対する不平不満はない。社会から『明日死んでね』と言われたら、ハイと言う」
「死にたくない」と言っていた先ほどの言葉とは矛盾するが、佐藤さんはそう語った。
「やってしまった側の人間の自分から言えることは、誰にでも『善の部分』が少なからずあるはず。自分の中にあった大切なものを大切にしていけば、今より生きやすい世の中になるかと」
●誹謗中傷に対抗する仕組みが作られていくどん底から救ってくれたのも、人を傷つけたのもインターネット。匿名の書き込みの先には、ネガティブな感情を誹謗中傷の形で人にぶつける人がいた。
佐藤さんは生活保護や障害者年金を受け取って生活している。誹謗中傷をなくそうとしたとき、「社会に不平不満はない」と言っていた彼のような人間を支える社会を目指すことも長期的な視野からすれば効果があるのではないか。
だからといって、今苦しんでいる被害者が誹謗中傷に振り回され続けなければいけない理由はない。これまで泣き寝入りをしていた被害者たちは、悪質な誹謗中傷に対して続々と立ち上がっている。
総務省が運営を委託する「違法・有害情報相談センター」への相談件数は、2022年度は5745件となり、8年連続で5000件を超えて高止まりの傾向を示している。
総務省は3月、プロバイダ責任制限法の改正案を閣議決定した。悪質な投稿の迅速な削除対応をプラットフォームに義務付けるもので、スピーディーな被害救済を図る。
同社の誹謗中傷行為を対策するチームには、1カ月に約1500件もの誹謗中傷の情報が寄せられ、投稿に向き合い続けているという。
(出典 news.nicovideo.jp)
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