元国税調査官が指摘する自民党の裏金問題とは?
政治資金や政治献金はなぜ存在するのか、とことん規制すると何が起きるのか 国ごとに異なる政治献金のシステム、選挙広告は ... - JBpress 政治資金や政治献金はなぜ存在するのか、とことん規制すると何が起きるのか 国ごとに異なる政治献金のシステム、選挙広告は ... JBpress (出典:JBpress) |
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■「パーティー券収入のキックバック」に脱税の指摘
自民党の裏金問題が尾を引いている。
清和会(安倍派、2024年1月19日に解散決定)が派閥のノルマを超えたパーティー券販売収入をキックバックし、事実上の裏金としていたことが、東京地検特捜部の捜査によって明らかになった。
自民党の池田佳隆衆院議員が政治資金規正法違反の疑いで逮捕。ほか議員2人が在宅起訴、略式起訴されている。
今回の事件について、ネットなどでは「これは脱税にあたるのではないか」という指摘がなされている。
派閥の各議員にキックバックされたお金は、収支報告書に記載されておらず、「裏金化」しており、当然、税務申告もされていない。世間で「脱税ではないか」という疑念が生じるのは無理もない。
■国税は政治家に対して「非常に弱腰」
が、キックバック議員たちが脱税で起訴されるかというと、残念ながらそのハードルは非常に高いと言わざるを得ない。
まず第1のハードルとして、政治家に対して税務当局(国税庁、東京地検特捜部など)は「非常に弱腰」ということがある。
国税庁は本来、相手が首相であろうとも、税務調査を行い、脱税を摘発する権利を持っている。
政治団体には税務署への申告義務はないが、政治家個人は税務署への申告義務がある。もし、その申告におかしな点があれば、国税は政治家を税務調査することもできるし、そこから政治団体の金に斬りこむこともできるはずなのだ。
しかし、国税は政治家に対して、まともに税務調査をしていないのである。
■国会議員として力があるうちは動かない
国会議員でも、脱税で摘発された者はいる。しかし、それはかなり限られたケースだ。
政治家は入金や出金に不透明な部分が多く、ほとんどの人が多かれ少なかれたたけば埃が出るともいわれている。なのに、国税はよほどのことがない限り動かない。
たとえば、元自民党幹事長の加藤紘一氏に国税の調査が入ったことがある。ただそれは加藤氏が自民党に反旗を翻して失敗した「加藤の乱」の後のことだ。
加藤紘一氏は、以前から税金に関してグレーの部分があるとマスコミなどで言われていた。が、彼に勢いがある間、国税はまったく動こうとはしなかった。動いたのは「加藤の乱」の失敗で政治的な力を失って以降の話だ。
またかつての自民党のドン、故金丸氏もまた脱税を摘発されているが、それも佐川急便からの多額の裏献金事件が発覚した後のことである。故金丸氏は5億円もの裏献金を受けていたが、贈賄では立件できなかった。
■政治献金には税金がかからない
しかし故金丸氏は5億円を受け取っており、「ワリシン」という金融商品を個人名で購入した、という事までわかっていた。
それが申告されていないのはおかしいという世論に動かされて、ようやく国税は摘発に踏み切ったのだ。
ただ故金丸氏が国会議員でいる間は動いていない。彼が世間の批判にさらされ、議員バッジをはずしてから、国税はやおら重い腰を上げたのである。
政治家への税金の制度自体、非常に緩いものとなっている。
まず政治献金には、事実上税金がかからない。
というのは、献金は政治家本人にされるのではなく、政治団体にされる建前になっており、その政治団体は、収益事業をしていない限り税金がかからない。
「収益事業ではなく政治活動」であれば税金がかからないのだ。
■税務署の調査を受けることもない
政治団体は税務署への申告義務がないので、事実上、税務署が調査に入ることもない。政治団体が献金されたお金をどういうふうに使おうと税務当局からのチェックはないのだ。
ただ、政治資金の使い道については、政治資金規正法の制約がある。また会計報告書を国に提出する義務があり、その報告書は公表される。しかし一般企業のように、税務署の厳しい調査を受けることはない。
税務署の税務調査では、銀行口座や取引相手の調査などが行われ、不正な収入や支出がないか厳重にチェックされるが、政治家はチェックされないのだ。
政治団体は議員や職員などへの給与の源泉徴収を行っている。税務署は源泉徴収が適切に行われているかの調査もできるので、やろうと思えば政治団体への税務調査は可能だ。
宗教法人などに対して税務署が調査を行うことがある。だが政治団体には遠慮し、ほとんど調査を実施していないのである。
■「パーティー券収入非課税」は無理がある
そもそも政治家のパーティー券収入が非課税となっていることも、税法から見れば大きな疑問だ。
現在のところ、政治資金パーティーのチケット販売収入は、普通の「パーティーの会費」にすぎないという解釈がされている。
しかし実態としては「パーティー」とは名ばかりであり、「資金集めが目的」ということは明白だ。
飲食の経費は少なく、主催者に莫大(ばくだい)な収益が生じるものであり、「ただのパーティーの会費」という解釈は相当に無理がある。
■本来「収益事業」には課税すべき
本来は政治団体であっても、「収益事業」を営んでいれば、法人税等が課せられる。
政治家のパーティーは事実上の収益事業であり、これに税金が課されないのは、本来はおかしい。
しかし税務当局は、これまで政治家のパーティー券収入を、申告漏れで指摘したことはない。世間一般の常識から見れば非常におかしな話である。
この点でも税務当局は、政治家に遠慮をしているのではないか。
■裏金で飲み食いしても非課税
パーティー券収入の非課税の是非は置いておいても、今回判明した「キックバックされたお金」は完全に裏金化しており、帳簿には載せられていない。
つまりは、収入をごまかしていたわけであり、これについて税務当局はなぜ脱税で摘発しないのか、という疑問は当然生じる。
が、ここにも大きなハードルがある。政治活動費というものは非課税とされており、しかも非常に広い範囲で認められる傾向にある。
極端な話、裏金を飲み食いに使っていても、政治活動費として使ったと主張すれば課税されない可能性がある。
また何に使ったかわからない場合でも、政治家が「政治活動に使った」と言い張れば、それが通ってしまいかねない。
一般の企業などではあり得ないことだが、政治家の税金はそのくらい緩いのである。
また裏金を使わずプールしていた場合でも、政治団体名で預貯金などをしていたのであれば、「政治資金としてプールしていた」ということになり、政治家本人には課税されず、政治団体にも課税されないとなる可能性も高い。
個人名義で貯蓄していても、「これは政治団体が管理している金であり、政治家が個人で管理しているものではない」という言い逃れが認められる可能性もある。
■政治家の税金はゆるゆる
とにかく、政治家の税金というのは、制度自体がゆるゆるな上に、税務当局の対応もゆるゆるで、脱税摘発のハードルは非常に高い。
しかし、これは、税務当局が政治家に非常に寛大な解釈をしているからそうなっているだけであって、本来は、帳簿に載っていない収入があり、それを政治家が使っていたり、貯蓄していたりすれば、脱税もしくは課税漏れの指摘がなされるのが当然のはずだ。
■世論の盛り上がりが必要
この高いハードルを越える方法が一つだけある。それは「世論」だ。
税務当局は世論に非常に敏感である。国税局や税務署は、毎日のように納税者と対峙(たいじ)している。税務行政というのは、納税者の理解と協力がないと成り立たない業務である。
それゆえ国税は政治的なスキャンダルが起きると、国民の反発を受けやすい。
たとえば、税務署の調査官が税務調査に赴いたとき、今回のようなスキャンダルが起きていると、納税者が調査に快く協力してくれるとは限らない。
「なんでうちみたいな小さい事業者には弱い者イジメに来るのか? 政治家は何千万円も裏金を作っているんだから、なんでそっちに税務調査に行かないのか?」
という抗議も当然されるだろう。税務署の調査官としても、そう言われれば返す言葉がない。
また税務署の窓口まで団体で押しかけて抗議されたり、ちょっとしたことで納税者が大声を上げる、といったことも増える。そうなると、税務当局としては仕事がやりづらい。
そのため国税はある意味、「国民の顔色にもっとも敏感な官庁」でもある。自民党の最高実力者だった故金丸信氏を脱税で起訴したのも、世論の影響が大きかった。
われわれ国民としては、「どうせ脱税で起訴されることはない」とあきらめずに、さまざまな方法で、「裏金をつくっていたのに脱税で起訴されないのはおかしい」ということを訴えていくべきだ。
税務当局が国民世論を無視してこの問題を放置していれば、今度は税務当局がたたかれることになる。税務当局としてはそれだけは何としても避けたいはずなのだ。
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元国税調査官
1960年生まれ。調査官として国税局に10年間勤務。退職後、出版社勤務などを経て執筆活動を始め、さまざまな媒体に寄稿。100冊以上の著書があり近著に『マスコミが報じない“公然の秘密”』(かや書房)。YouTubeで「大村大次郎チャンネル」配信中。
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(出典 news.nicovideo.jp)
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